たいつノート

ゲーム等の感想置き場

シャニマス考察 pSSR【ピトス・エルピス】樋口円香

f:id:t1ghts:20210905004150p:plain

 

みなさんこんにちは。

アイドルマスター大学シャイニーカラーズ学部ノクチル学科樋口円香ゼミの時間がやってまいりました。

 

今回のテーマは、【カラカラカラ】【ギンコ・ビローバ】に続く円香3枚目のpSSR【ピトス・エルピス】です。

ネタバレ……というより既読を前提に話を進めるので、未履修の方はコミュを堪能したうえで読み進めてください。

 

それでは行きましょう。

 

・宝石箱とは何なのか

本カードで描かれるストーリーは、大きく二つの柱があります。

一つは、コミュ②「hako」で提示され、その正体がtrueコミュ「gem」で明かされる「宝石箱」をめぐるエピソード。もう一つは、コミュ③「uru uru」以降で描かれる、歌を練習するあまり喉を痛めてしまう円香の姿です。

もちろんこの二つは密接に絡み合っていて、円香の内面が宝石箱というモチーフを通じて描かれている訳ですね。

 

宝石箱の顛末を追うとこうです。

事務所の倉庫に貯まった物を整理する中で、円香の古い宝石箱が見付かりますが、鍵の開かない箱に円香は特に執着せず、処分されることになります。

その後、偶然宝石箱の鍵が開かれ、trueコミュでは、結局中身は何も入っていなかったことが分かりますが、Pだけは箱自体がオルゴールであったことに気付きます。宝石箱は、音を閉じ込めていました。

 

もう少し掘り下げましょう。

宝石箱は、コミュ②で表れる地の文のようなテキストによると、「大切なものを仕舞うために作られた箱だった」、「誰にも気付かれないように」鍵をかけられ、「二度と浮かび上がってこないように」海に沈められた、とあります。

実際には海に沈んでいるのではなく、樋口家のクローゼットの片隅に追いやられていた訳ですが、この独白を円香のものだとすると、円香自身の意思で閉じ込められ、捨てられたということが窺えます。

 

それでは、円香が宝石箱の中に仕舞った、「大切なもの」とは何だったのでしょう?

それは、trueコミュでPがその存在を確信しているように、円香の「激情」、言い換えるならば熱意や気持ち、感情だろうと考えます。


・円香という人間の生き方

コミュ①「hibi」では、円香がお笑い番組を見ていても、楽しんでいるのに笑えない、あるいは笑いたくないということが見て取れます。もちろんくだらない一発ギャグで吹き出すところを見られるのは恥ずかしいという照れもあるでしょうが、意図的に笑い出さないように振る舞っているように感じます。

コミュ②では不要品の処分に逡巡するPを「未練がましい」と一蹴し、自身のものですら淡々と処分を進めます。

コミュ③「uru uru」では、コンサートに感動して涙を流すPに対して、演奏者の内面ではなく技術こそが観衆の心を動かす、という言葉を引用しています。

 

こうして見ると、周囲に対して徹底してクールな態度を貫く円香の姿は、少なくとも本人の意識の上では、意図的に感情を切り捨てているかのように映ります。Pのように喜怒哀楽をあらわにすることは、好ましくないと思っているようです。

ただし、円香にとって、「激情」のような暑苦しい想いは、コミュ②の独白から推察するに、欠けているのではなく、何らかの強い意思をもって目を背け続けている、というのが正確ではないかと思います。

(それが何故なのかは、今後のコミュで明かされていくことでしょう)


・Pとカラス

しかし円香はPによってアイドルとして見出されてしまいました。アイドルの魅力を引き出すことが本職であるPにとって、円香に眠っていたものを見出すのは自然なことなのかもしれません。あるいは、およそ正反対のタイプといえるPだからこそ、気付くことがあるということでしょうか。

 

コミュ④「kara su」では、針金のようなゴミを集めて巣を作るカラスと、カラスの駆除一つ取っても思いやりをもって丁寧に進めるPの姿が描かれます。

巣の中に光るビー玉を見つけて少しはしゃぐPは、「童心に帰って」と揶揄されていますが、ガラクタの中から光る物を見つけ出したのは、円香に捨てられそうになっていた宝石箱の真相に気付いたり、あるいは円香自身の真価に気付いたりという、「プロデューサー」としての一側面とリンクしているようにも思われます。

 

続くシーンで、練習のしすぎで喉を痛めている円香が登場します。既に求められている基準はクリアしているもののストイックに練習を続ける円香の姿に、円香自身の自覚はなくとも、Pは単なる「技術」の向上だけではない感情の片鱗や、円香が「正解」や「美しいもの」が見えているのではないかと感じ取ります。

思い出アピールの言葉を拝借するならば、円香には感情が「ない」のではなく「足り(てい)ない」のだということですね。

 

コミュ名については、カラスと、喉を「涸らす」まで練習に打ち込む円香、そして「うるうる」の対義語としての感情が「涸れ」ている様を示唆しているように思います。


・ピトス・エルピス

trueコミュ「gem」では、宝石箱が開かれ、Pは捨てられた宝石箱がオルゴールであったことに気付き、喉を痛めながらも懸命に練習を続ける円香に「激情」を見出します。円香がオルゴールと共に封じ込めた「大切なもの」がこの激情であった、ということを感じさせる演出で締めくくられます。

「激情」というのは単なる感情に止まらず、オルゴールが音色を鳴らすように、アイドルが歌に乗せて気持ちを伝えることだったり、そのための努力であったり、ということまで含めているかと思います。

もちろん、円香はアイドルにならなければ喉を涸らすまで歌うようなことはありませんでした。円香が封じ込めていた「激情」を呼び起こしたのは、他ならぬPということです。

 

ここで、カード名となっている「ピトス・エルピス」が示唆的な意味を持っています。これはいわゆる「パンドラの箱」の逸話を指していると考えられます。

<補足>
細かくはWikipedia等を読んでいただくとして、パンドーラーが神々から授かった「甕(=pithos)」を開けると、中から災いや病気があふれ出し世界に蔓延することになったが、「希望(=elpis)」だけは甕の中に残った、というギリシャ神話のエピソードです。ちなみにエルピスは希望を神格化した女神の名前でもあります。

英語やギリシャ語で頑張ってインターネットの海をさまよいましたが、「pithos elpis」というイディオムではあまり用いられていないようです。意訳すれば「(パンドラの)箱に残されたエルピス」ということになるでしょうか。

よってここで「elpis」という語を使っている以上は、あふれ出た厄災というよりも、中に残った希望の方に重点を置いているのではないかと思います。

(私は文学部で古典ギリシャ語の基礎をかじった程度なので、専門家のご意見が聞きたいところです)

 

平穏と心地良い停滞を望む円香が、アイドルとしての活動やPの熱意を通じて、感情を揺さぶられるという描写がこれまでのコミュでもたびたび描かれていたように、【ピトス・エルピス】での一連のコミュは、まさしくPが円香の秘める「激情」というパンドラの箱を開けてしまったことを象徴しているように思います。

円香にとって、感情を表に出すことが好ましくないだけでなく、コミュ①で円香が笑って吹き出してしまったためにPのシャツが汚れたり、コミュ③以降で自覚はないものの歌の練習に熱を上げるあまり喉を壊したりと、感情が表れるからこその(つまりパンドラの箱を開けてしまったが故の)トラブルというものもあります。

そうだとしても、Pもとい我々読み手が、trueコミュで「魂を削るように」歌う円香の姿を見て感じ取るのは、円香に秘められた「激情」であり、一度は捨てられかけて錆び付いたオルゴールの音色のようにまだ不完全ではあっても、ひたむきに努力を重ねるという「希望」ではないかと思うのです。

 


これまでのカードでも断片的に描かれてはいましたが、円香がただのクールぶったニヒリストではないということが、改めて確信できる一枚だったと思います。

私は【ギンコ・ビローバ】みたいなエッジの効かせ方より、【カラカラカラ】とかこういうテイストの方が好きですね。

樋口円香というキャラ、深い……。


ご意見ご感想歓迎です。それではこの辺で。

 

初稿:2021/09/05