たいつノート

ゲーム等の感想置き場

【ゲーム感想】ヘンタイ・プリズン 全てのHENTAIに捧ぐ 痛快無比な獄中エンタメ

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みなさんこんにちは。

Qruppoがまたやってくれました。同ブランドの処女作である「ぬきたし」の評判は既に言を俟たないところですが(※)、上がりに上がったハードルを容易く超えてきた最新作、「ヘンタイ・プリズン」(以下ヘンプリ)の感想を書き連ねたいと思います。

途中までネタバレはありません。

 

※当ブログの感想はこちら。

t1ghts.hatenablog.com


〇ネタバレのない範囲のゲーム紹介

のっけから絶賛ムードを漂わせてはいますが、実は私もプレーするまでは「ぬきたしより面白いことなんてあるのか……?」と少々懐疑的でした。

発表当日に勢いで予約を入れていたので、体験版にも手を出さず、宣伝はカウントダウン動画を見ていた程度。その動画も、狂気的に下ネタが繰り広げられていたぬきたしの没シナリオ集よりもやや抑えめで、作風も変えてきてシリアス寄りな感じなのかなぁと勝手に思っていました。

実際、掴みとしては「抜きゲーみたいな島」で学園生活をやる方がどう考えても強い、これは仕方ないところです。確かに冒頭の導入シーンは重たく、なかなか愉快な話も進まないので若干まどろっこしさを感じるのも否定はできません。

ですが、そう時間も経たないうちに次々と波乱が押し寄せ、ジェットコースターのように話は進み、気づけば目が離せなくなっていました。どんでん返しのカタルシスの連続で、雰囲気としてはカイジとか半沢直樹(ちゃんと見てないけど)が近いように思います。

 

主人公である湊柊一郎が、プリズンで何を成そうとするのか? ヘンプリは、いったいどんな物語なのか? ……これは宣伝では意図的に伏せられていると思うのですが、個人的にはかなり意表を突かれました。と同時に、たしかにエロゲでしか描けない、これぞQruppoというようなテーマでもあります。

結局、何も知らないままプレーしたほうがいいに決まっているので、私からは「体験版をやってくれ!」としか言えません。

こちらです。

qruppo.com

 

ただ、もしあなたが「ぬきたし」をプレー済で、面白いと感じていたなら。「とにかく買ってくれ!!」と言わざるを得ません。特に無印グランドルートが刺さった方、間違いなく「買い」です。

(美岬ルート的成分は少しばかり抑えめですが……と言いつつ、下ネタは当たり前のようにそこかしこにあるので、比較基準がおかしいだけというか、慣らされてしまっただけかもしれません)

 

そして、もしあなたがぬきたしを通っていなければ、何ならぬきたしからやった方がいいという説が濃厚です。多分とっつきやすいし。何よりその方がヘンプリを更に楽しめます(重要)。

ぬきたしの体験版はこちらです。

qruppo.com

 

何だかQruppoの回し者じみてきましたが、単にこの素晴らしい作品を多くの人に触れてほしいという一心なのです(光栄なことに?「ぬきたし 感想」とかでググると当ブログが真っ先に出たりするっぽいので……)。

未プレーの方に向けた紹介もほどほどにして、本題の感想に入りたいと思います。

 

 

 

以下は、ネタバレが含まれます。注意!!!

 


〇感想 各ルートについて

千咲都→ノア→妙花の順でクリアしました。ま~とにかくグランドが素晴らしかったんですが、ヒロインの個別ルートはしっかりまとまったグッドエンドという趣です。

個別ルートは、結局のところ各ヒロインのそれまでの価値観の延長にあって、柊一郎が全力でそれをサポートする、という物語の帰結にあるのかなと思います。千咲都は誰かに必要とされながらも地下で生きていける手段を見つけ、ノアは姉との和解を果たし、妙花は波多江組として「H」騒動を解決しました。どれも普通にハッピーエンドで、各キャラの思い通りの結末ではあります。

ですが結果として、柊一郎自身の問題は、自己(アマツくん)と向き合うことがないまま、「他者を愛する」という経験によって副産物的に解決してしまいました。

 

グランドを読み返していて気づいたのですが、作中のゲーム制作で最終盤のプロットを見直したい、という会話を19班のメンバーでしている場面で、各々がかなり示唆的な発言をしています。千咲都は世間的な価値観はともかく登場人物の感情に寄り添ってあげたいと言い、ノアはヒロインが間違ってるなら殴ってでも止めろと言い、妙花は最後まで連れ添うのが夫婦だと言う。これってそれぞれの個別ルートに綺麗に対応してますよね。で、柊一郎が言う「新しくやりたいことを探す」(→ゲーム制作)というのがまさにグランドになると。

これに限らず、作中劇「ドスケベESP物語(仮)」もとい「ヘンタイ・アンド・ザ・シティ」は、本編とラップするように描かれていて、構成的に上手いなぁなどと思ったりします。

 

もう一つメタい観点では、敵対する看守陣営が対称的なのも上手い作りですよね。夕顔と敵対する千咲都ルートでは樹里亜と組み、樹里亜と敵対する妙花ルートでは逆に夕顔と組む……という、まさにゲームの醍醐味とも言えるような展開がよかったです。これまたグランドでは総力戦になるのも鉄板。

全体的な話はこれくらいにして、以下個別の感想。

 

・千咲都ルート

一番シンプルで短いながらも、夕顔というこれ以上なく分かりやすいヒールに一泡吹かせるという王道のシナリオ。パコルを使ったプリズン掌握の過程がいかにも獄中ものという感じで、面白かったです。

ただ普通に面白いんですが、やっぱり一味足りない感じがしてしまうのは、良くも悪くも2人の純愛物語できっちりまとまっているからかも。サブキャラが掘り下げられてる他のルートの方が好みかなぁというのが個人的な所感です。

 

・ノアルート

番号的には妙花が先に来てるのですが、選択画面で真ん中にあったのでついノアを先にやってしまいました。

ダブルヒロインというほどではないけど、ソフりんも掘り下げてくれる姉妹丼ルートです。ソフりん、自分の性癖に刺さり気味なのもありますが、それを差し置いてもめっちゃいいキャラですよね。つまりそんなソフりんが主役級のノアルートが個人的にはかなり好きです。

 

姉妹の問題を解消して脱獄で終わるかと見せかけて、そこからが本番。尺的にも普通に脱獄エンドだと思ってました。

ラストは若干やけ気味の爆発シナリオ(by伊栖未)なのですが、それでも「物故ろしてやるぜ、ベイビー?」がボイス付きで聞けるのはアツい。にしてもやっぱり夕顔の名やられ役っぷりは素晴らしいものがあります。エロゲ界の香川照之と言っても過言では……流石に過言でしたかね。

 

ちなみにノアルートで明かされたとおりにお姉ちゃんのしらす丼を作って食べてみたのですが、卵黄と煎り胡麻の濃厚な味わいに生姜醤油がピリッと利いてすこぶる美味しかったです。シャバにいる皆さんにはぜひお試しいただきたい。

 

・妙花ルート

シナリオ全体としては個別ルートで一番好きかもしれません。うっすらと美岬ルートを彷彿とさせるスケコマシ的展開に、畳みかけるような「前☆戯☆王」ネタの数々。私がちょうど射精ュエリスト世代ということもありますが、下ネタのキレが冴えてます。

それだけじゃなく、波多江組のファミリー感がすごいいいんですよね。三羽烏との交流であったり、あとはとにかく小沢。「波多江の強肩」があそこまで活きるオチってなんですか?

ヤクザらしく、最後が大立ち回りで締まるのも爽快感があって好きです。あとはキッチリ満期出所をするのはこのルートだけだったりするのですが、そこも回収が上手いなあと。

 

・グランドルート

シナリオが上手すぎてヤバいとしか言えなくなりました。グランドの名に恥じず、全てのキャラの物語を描き切り、これしかないというエンドに至る最高の物語だったと思います。

ドスケベESP物語は「主人公が居場所を見つける物語」であると語られていたように、まさしくヘンプリは湊柊一郎がこの世界に居場所を見つけるまでの物語です。そしてその過程は、作中劇では仲間を得ながら「街」を守る使命感に目覚めていくというものであったように、グランドでは柊一郎が各ヒロインと絆を結びつつ看守長を攻略しながら、プリズンの囚人や看守みんなから信頼を勝ち取っていく、というものです。一人ずつ名前呼びになっていくところとか、ベタだけどめちゃ好きですね。

 

それぞれの個別ルートで示された課題や伏線を全部取り込んで、しかもまとめきっているのが本当にすごいです。伊栖未ルートでもあり、ノアルートでもあり、妙花ルートであるばかりか、夕顔、樹里亜、ソフりん、小沢、夏海、凜、はたまたクソ森ですら、攻略対象と言っていいと思います。オールキャラ詰め合わせでグランドルートの名に恥じない贅沢な仕上がりです。クライマックスのモブキャラ大集合もアツい。

そして長い長いエピローグの末に描かれる、釘谷さんの物語もまた素晴らしいです。エロゲーのくせにラストがおっさんの笑顔で、しかもこんなに胸を打たれるなんてことがあっていいのでしょうか。マジで卑怯。

 

柊一郎が周りに受容されていく過程自体も、笑いありアツさありで非常に読みごたえがあるのですが、それが柊一郎自身の更生に直結しているのがまた話の上手いところなんですよね。

樋口女史との会話シーンを通じて、露出の原因が精神障害によるものであることがそれとなく示唆されますが、他者への共感ができないという社会性の欠如が柊一郎の抱える疾患であり、罪の元凶でもあったようです。自ら相姦係数を引き受けて死刑になることを選んでいるあたりから、本当に最後まで自覚はなかった様子ですが、ボタ山の崖で自らと向き合いアマツくんがいなくなったあの瞬間に、おそらく解消されたのだろうなと思います。

そしてこれが物語のクライマックスを綺麗になぞるように、脱獄のための最後の一手になったという構成の上手さは本当に脱帽です。

 

個別ルートが終わったときは「やっぱ面白いな~」ってぐらいの印象だったのですが、グランドルートで完全に持ってかれましたね。マジで感服しました。


※オマージュ元について

有名な映画なのでご存知な方も多いと思いますが、「ショーシャンクの空に」の影響が割と色濃いような気がします。

わかりやすいところだと「調達屋」の釘谷さん周りの話はかなり意識されてるように思います。所長の右腕になるような展開とか、再会に至るまでのシーンが顕著かなぁと。章タイトルも「Tulip Redemption」で原題まんまですし。

あとは収監直後のシーンがそっくりだったり、わいせつ房の背景とか図書係とか、釘谷さんの口からモンテ・クリスト伯の名前が出たりとか。

もちろん本作のオリジナリティと素晴らしさは疑いようがないのですが、獄中ものとしての"らしさ"というか、エッセンスが上手く活かされてるなぁと思った次第です。


ヘンプリで描かれたもの

ジャンル名は「露出狂のプリズン脱獄ADV」で、事実としてそれは間違っていないのですが、本質的にはいわゆる創作ものっていうか、「エロゲ制作エロゲ」ですよね。「漫画制作漫画」(ハメマン。)とか「アニメ制作アニメ」(SHIKOPAKO)みたいなやつです。

このテーマを獄中ドラマと悪魔合体してまとめ上げている手腕は凄まじいの一言ですが、よくよく考えてみると、性犯罪とか表現規制とか、「性」を巡る問題に切り込むにはプリズンって案外沿った舞台設定だなと思います。

 

性行為や性的嗜好は他人に強制されるものじゃない、他人に迷惑をかけていいものじゃない、というメッセージはぬきたしのときから一貫していたように思いますが、ヘンプリでは更に一歩踏み込んでエロゲの作り手としての想いも託されているのかなと。

この辺は好みは分かれるかもですが、メーカーの熱意とか信念みたいなものが感じ取れて、私は嫌いじゃないです。やっぱりエロコンテンツ(HENTAI)って世間では肩身が狭いと思うんですよね。そこにあって好きなものは好きと言っていいんだよ、っていうのはエロゲユーザーに向けたエールのようにも感じられるわけです。

 

〇ぬきたしとのつながり

完全に別ゲーだと思っていたのですが、まず花丸妹が出てきて嬉しいサプライズでした。次第に青藍島の存在が明かされ、ぬきたし世界と地続きの舞台設定であることが判明します。ハメー彗星や青藍島での大立ち回りが10年前の~というような会話があったので、多分10年後なんでしょう。

空手の流派だったり、「今はマニラにいる」夕顔の心理学の先輩だったり、キーワード程度のつながりでも嬉しいファンサービスだなぁなどと思っていたのですが。さらにはノアルートで名前の出る「凄腕の操縦手」が美岬だったりしないかなぁと妄想していたのですが。

まさかのNLNS全員登場、しかも超いいところで淳之介の腕が出てくるという演出に思わず声出ました。ファンの気持ちを理解してるってこういうことだなぁと思います。

 

エピローグでも文乃ベイビーと思われる存在が確認できたり、いろいろと想像が膨らみますよね。

おまけ冊子のようなところでも構わないので、ぬきたしとヘンプリの公式クロスオーバーが何かしら見れないかなぁと思ってます。


〇ゲーム周りの話

シナリオの素晴らしさは上で語ったとおりですが、ゲーム部分も相変わらず丁寧な作り込みです。

まずは演出面の進化。ぬきたしからゲームエンジンが変わったこともあるのか、めちゃくちゃ動きます。セリフ途中のフェイス変化だったり、多種多様な効果音だったり、丁寧な演出でした。

 

システム的にはボイス登録だったりシーンジャンプだったり、じっくり読み返すのに嬉しい機能が満載です。UIもすっきりしてていいですよね。タイトル画面でワンテンポ置かないとボタンが押せないのは改善してくれるといいなと思ってますが……(自分の環境の問題?)。

 

BGMもやっぱり素晴らしいです。プリズンという少しダークな雰囲気に寄せて日常曲は抑えめな分、要所でがっつりテンションを上げてくれるロック調の楽曲が印象的です。特に決め場で流れがちな"I'll pay you back"と"Exectue you"がお気に入り。あとは何といってもED2 "I can't be a superstar"が最高ですね。歌詞公開が待ち遠しいです。
原曲があるとはいえ"The Entertainer"もハマってて好きです。千咲都のテーマと思われる"Thousands of pages"もいいですね。


〇最後に

冒頭にも書きましたが、ぬきたしで高まった期待値を飛び越えるめちゃくちゃいい作品でした。Qruppoブランドとしてのエッセンスは押さえつつ、ヘンプリのキャラクターや舞台でしか描けない物語を存分に味わえました。

ドラマCDでもファンディスクでも没シナリオでもいいので、このキャラたちの幸せなエピローグをもっと見ていたいなぁという気分です。何かしら出れば即購入させていただく所存ですので、Qruppoさん、どうぞよろしくお願いします!

 

以上


初稿:2022/02/06

改訂:2022/02/07 某映画を観たのでちょっと追記。